住設・再エネ業界の採用支援をしている柏木涼太です。
前職はエネルギー系に特化した人材紹介会社で、営業職の転職相談を600件ほど受けてきました。
ここ2〜3年、まったく違う立場の2種類の人から、同じ話を聞くようになりました。
ひとつは、自宅に太陽光を載せている知人からの「もう付いてるのに、なぜか営業が来る」という話。
もうひとつは、業界の採用担当者からの「うちの営業は、設置済みのお宅を回っています」という話。
同じ現象を、家の側と会社の側から見ているわけです。
太陽光を設置した家に営業が来るのは、担当者の思いつきでも、リストの手違いでもありません。
業界の構造が変わった結果として、そうなっています。
この記事では、その構造を営業側の事情まで含めて整理します。
断り方のテクニックではなく、なぜ来るのかを理解してもらうための記事です。
すでに載っている家に、なぜ営業が来るのか
太陽光の営業と聞くと、多くの人は「まだ載せていない家に、パネルを売りに行く仕事」を想像します。
その理解でいくと、設置済みの家を訪ねるのは無駄足に見えます。
ところが業界の中では、設置済みの家こそ効率のいい訪問先だと考えられています。
理由は3つあります。
1つ目は、設置済みの家が10年以上かけて積み上がったことです。
住宅用太陽光の固定価格買取(FIT)は、買取期間が10年と決まっています。
2009年に始まった余剰電力買取制度の分から順に、買取期間が満了した家が毎年生まれ続けてきました。
いわゆる「卒FIT」です。
売電単価が下がったタイミングは、家庭にとって電気の使い方を見直す動機になります。
売る側にとっては、話を聞いてもらえる可能性が上がる瞬間です。
2つ目は、設置済みの家がリストとして質が高いことです。
太陽光を載せた家は、過去に一度、決して安くない金額を電気に投じています。
省エネや光熱費の話に関心があると証明済みの家庭だ、という見方ができるわけです。
しかも、屋根を見れば外から判別できます。
名簿を買わなくても、その日歩いたエリアの屋根を見ればターゲットが分かる。
訪問営業の効率という一点だけで言えば、これほど分かりやすい条件はありません。
3つ目は、売っている商品が変わったことです。
いま設置済みの家に向けて提案されているのは、パネルそのものではありません。
蓄電池、エコキュート、IHクッキングヒーター、オール電化への切り替え。
太陽光がすでにある家だからこそ意味を持つ、その次の設備です。
つまり「太陽光の営業」と一括りにされているものの中身は、すでに新規設置の営業から設置後の追加提案へと軸足が移っています。
実際に、設置済みの家に向けて使われる入口はほぼ決まっています。
- 点検やメンテナンスの案内
- 発電量が落ちていないかというアンケート
- 買取期間が終わったあとの売電単価の説明
- 設置した会社が対応できなくなった場合の代替の案内
どれも、太陽光が載っていない家には成立しない話題です。
逆に言えば、この4つのどれかで話が始まったなら、相手はこちらが設置済みであることを前提に来ていると考えていいことになります。
数字で見ると、設置後への訪問は明らかに増えている
体感の話だけでは説得力がないので、公的な統計を見ます。
国民生活センターが2025年6月4日に公表した報道発表資料によれば、太陽光発電システムの「点検商法」に関する相談件数は次のように推移しています。
- 2017年度は57件
- 2021年度は90件
- 2022年度は154件
- 2023年度は304件
- 2024年度は613件
2023年度と2024年度は、それぞれ前年度の約2倍。
2017年度と比べると約11倍です。
同じ資料には、契約当事者の平均年齢が69.1歳、70歳代以上が約6割、平均契約購入金額が約113万円というデータも載っています。
点検商法という手口の性質上、対象になるのは必ず「すでに設備がある家」です。
設置していない家に点検の話は成立しません。
この数字の伸びは、設置後の家に向かう訪問がどれだけ増えたかを示す、いちばん直接的な証拠だと私は見ています。
参考:国民生活センター「太陽光発電システムの点検商法が急増!」
もうひとつ、興味深い対比があります。
同センターが相談件数を継続的に公開しているページによると、訪問販売によるリフォーム工事の相談は2023年度の11,879件から2025年度は5,544件へと減っています。
一方で点検商法の相談は、2023年度12,550件、2024年度19,249件、2025年度19,696件と高止まりしたままです。
売りに行く訪問は減り、点検を入口にする訪問は減っていない。
アプローチの形が入れ替わったことが、件数の動きに出ています。
参考:国民生活センター「訪問販売によるリフォーム工事・点検商法」
「点検が義務化されました」は、そのままでは成り立たない
設置済みの家を訪問するときの入口として、いま最も使われている言い回しがあります。
「太陽光発電の点検が義務化されました」というものです。
これは、そのまま受け取ってはいけません。
経済産業省の九州経済産業局は、2025年8月に出した注意喚起の中で、点検の義務対象かどうかは各設備が該当する関連法令によって異なると明記しています。
一律に「すべての家庭の太陽光が点検義務の対象になった」という制度にはなっていません。
国民生活センターの資料に載っている相談事例も、ほぼ同じ形をしています。
「法律で義務化された」と言われて無料点検を受け入れ、そこから数十万円の洗浄やコーティングの契約に進む。
「県から依頼されて回っている」と言われ、後で県に確認したら事実無根だった。
自治体名や大手企業名を出されると、確認しないまま話を聞いてしまう人は多いです。
名乗りは、その場でメモを取って後から電話一本で確かめられます。
資料に載っている相談事例は、どれも形がよく似ています。
「点検が法律で義務化された」と言われて屋根をドローンで見せられ、そのまま洗浄とコーティングで約40万円の契約になった例。
「設置した会社が倒産したので代わりに来た」と言われ、修理と撤去の見積を示された例。
ここで、契約当事者の年齢をもう一度思い出してください。
平均69.1歳、70歳代以上が約6割です。
実家に太陽光が載っているなら、この話は自分よりも親に必要な情報かもしれません。
その場で決めずに一度電話をちょうだい、と頼んでおくだけで防げるものは、かなりあります。
参考:九州経済産業局「『太陽光発電システムの点検が義務化された』という勧誘が増えています!」
蓄電池は「付ければ得」ではない
設置済み世帯への提案で最も多いのが蓄電池です。
卒FITで売電単価が下がったのだから、貯めて自分で使うほうが得だ。
この説明は分かりやすく、実際そうなる家庭もあります。
ただ、国民生活センターは家庭用蓄電池の勧誘トラブルに関する資料の中で、余剰電力を売るより自家消費するほうが必ず経済的メリットが大きいとは限らない、とはっきり書いています。
同じ資料では、家庭用蓄電池に関する相談のうち訪問販売によるものが8割を超えていたことも示されています。
得になるかどうかは、その家の発電量、日中の在宅状況、契約している電気料金プラン、そして設備の価格で変わります。
自宅の条件を一切聞かずに「絶対に得ですよ」と言い切る相手は、その時点で判断材料を持っていません。
参考:国民生活センター「家庭用蓄電池の勧誘トラブルにご注意!」
私が設置済みの家庭に勧めているのは、断り文句を覚えることではなく、次の材料を手元に用意しておくことです。
- 直近1年の電気料金の明細と、月ごとの使用量
- 発電モニターで見られる年間の発電量と、売電した量
- FIT買取期間がいつ終わるのか(終わったのか)という日付
- 設置したときの見積書と、施工した会社の連絡先
この4つがあると、話の精度が一気に変わります。
まともな提案をする会社なら喜んで数字を使いますし、そうでない相手は数字の話を避けます。
見分けるための道具として、これ以上わかりやすいものはありません。
営業する側は、いま何を見ているのか
ここからは、私が普段いる採用側の話をします。
訪問営業の現場は、この数年で目に見えて難しくなりました。
国際航業のサービス「エネがえる」が2025年10月から11月にかけて、太陽光や蓄電池の訪問販売に従事する111名に行った調査では、直近2〜3年で個人住宅への訪問営業が以前より難しくなったと感じる人が89.2%にのぼりました。
理由の最上位は、特殊詐欺や悪質販売の報道が増えて警戒感が強まったこと(61.6%)です。
回答者が111名と小規模な調査なので数字の扱いには注意が必要ですが、現場の感覚とはよく一致します。
悪質な手口の報道でいちばん割を食っているのは、同じ業界でまっとうに営業している人たちだ、ということです。
だからいま、会社側は「訪問の中身をどう説明するか」に相当な労力を割いています。
求人票を読むと、それが分かります。
たとえば太陽光や蓄電池、エコキュートを扱う株式会社エスコシステムズの採用情報ページでは、営業の仕事内容として「太陽光パネルを設置済みのお客さま宅に訪問し、エコ商材のPR〜ご提案までをお任せいたします」と、訪問先が設置済み世帯であることを最初に明記しています。
さらに同社は、営業をラウンダー(アポイント取得)、アプローチャー(ヒアリング)、クローザー(契約)の3段階に分ける分業制を採っていると説明しています。
訪問して発電状況や設置費用をヒアリングする担当と、契約をまとめる担当が別の人間だ、という構造です。
この形を採用ページで先に開示していること自体が、業界の変化を表しています。
訪ねてくる人が誰で、何を目的に来ているのか。
そこが曖昧なままでは、玄関のドアが開かなくなったからです。
私は分業制が万能だとは思っていません。
最初に来た人が全体像を説明できないという弱点はあります。
ただ、訪問の目的と役割を先に言葉にしている会社と、名乗りを曖昧にしたまま入ってくる相手とでは、家庭が受け取る情報の量がまるで違います。
玄関先で最初に確認すべきなのは、会社名と、その人が何をしに来た担当なのか、この2点です。
ちなみに、この業界へ転職していいものか、という相談も私はよく受けます。
そのとき見るのは、求人票が訪問先と訪問の目的を具体的に書いているかどうかです。
「新規開拓」「反響営業」としか書いていない求人は、入社してみるまで自分が何をするのか分かりません。
誰の家に、何のために行って、どこまでを自分が担当するのかが書いてある求人は、少なくとも説明から逃げていない。
家庭の側から見て信用できる会社かどうかと、働く側から見て話が通じる会社かどうかは、だいたい同じところに表れます。
まとめ
太陽光の設置後を狙う営業が増えているのは、次の3つが重なった結果です。
- FITの買取期間が10年で満了し、設置済みの家が積み上がり続けている
- 設置済みの家は、屋根を見れば分かるうえに関心が証明済みの訪問先である
- 売る商品がパネルから蓄電池やオール電化へ移り、既設世帯が主戦場になった
そのうえで、点検を入口にした手口の相談が2024年度に613件と、2017年度の約11倍まで増えています。
訪問そのものを敵視する必要はありませんが、名乗りを確認しないまま話を進める理由もありません。
電気料金の明細、発電量、買取期間の終了時期、設置時の見積書。
この4つを手元に置いて、数字で話ができる相手かどうかを見る。
そして仕事として考えている人にとっては、この分野はいま「どう訪問するか」を各社が作り直している最中です。
訪問先と役割を先に開示する会社が出てきているのは、その途中経過だと私は見ています。
